大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和50年(ラ)34号 決定

抗告人(被申立人)

桜井治兵衛

相手方(申立人)

高柳昇

右代理人

藪下紀一

主文

一、原決定を取り消す。

二、相手方(申立人)の申立を却下する。

三、申立に要した費用は第一、二審とも相手方(申立人)の負担とする。

理由

一本件申立の趣旨は「原決定を取り消し、更に相当な裁判を求める。」というにあり、その理由とするところは、「相手方が抗告人と相手方間の前記裁判所昭和四七年(ヨ)第四八三号不動産仮差押事件につき保証として供託した担保の取消を申し立てたものであるが、右仮差押事件の本案事件は、裁判所に係属中であり、原決定は本案訴訟の判決確定前になされたものであるから不当である。」というにある。

二記録によれば、相手方が申請した東京地方裁判所八王子支部昭和四七年(ヨ)第四八三号不動産仮差押申請事件について、同裁判所が、相手方(債権者)に対して、金二〇〇万円の保証を立てさせて右申請を認容する旨の決定をしたこと、右仮差押の本案事件は、東京高等裁判所昭和五〇年(ネ)第四四三号事件(原審・東京地方裁判所八王子支部(手ワ)第一四一号)として同裁判所第九民事部に係属中であること、また、本件担保取消決定申立の理由は「抗告人(被申立人。仮差押債務者)は、昭和四九年一〇月二八日解放金を供託して右仮差押命令執行取消決定を得たほか、相手方(申立人。仮差押債権者)においても昭和四九年一一月九日右仮差押申請を取り下げ、担保の事由が止んだのに担保権利者である抗告人(相手方)がその権利の行使をしないので、同人に対し、一定の期間に右担保につきその権利を行使するよう催告し、若し、同人がその権利の行使をしないときは、前記担保の取消をされたい。」というにあること、右申立に基づき原裁判所は、昭和四九年一一月二一日付書面で抗告人(被申立人)に対し、相手方(申立人)の供託した前記保証(金二〇〇万円)につき、右書面到達の日から一四日以内に担保権利者としての権利を行使すべき旨の催告をし、右書面は翌日抗告人(相手方)に送達されたに拘らず、同人はその権利の行使をしないので、同年一二月一六日付をもつて本件担保取消決定をなすに到つたことが認められる。

よつて按ずるに、民訴法一一五条三項所定の権利行使の催告をするには、一般に、「訴訟の完結後」でいることが前提要件とされ、本件のように、保全処分によつて生ずることあるべき損害が被担保債権とされている場合における右要件の意味は当該仮差押又は仮処分事件が終了したのみでは足りず、その本案訴訟が終了することを必要とすることは、右制度の目的に照らして明らかであるところ、本件仮差押の本案事件が未だ終了するに到つていないことは、前記の通りであるから相手方(債権者)の申立によりなされた権利行使の催告は、その余の点を判断するまでもなく民訴法一一五条三項後段の効力を生じえないというべく、また、同条一項及び二項所定の要件に該当する事実を認めるに足りる資料もない。

そうすると、本件申立は理由がないというほかはないからこれを認容した原決定は不当である。

よつて、原決定を取り消し、本件申立を却下し、申立費用を第一、二審とも相手方(申立人)の負担として主文の通り決定する。

(吉岡進 兼子徹夫 太田豊)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例